今すぐに出国しなければならない。지금 당장!(今すぐに!)何台もの空車タクシーが私を無視して通り過ぎた。やっと止まった一台のタクシーに乗り込み、「仁川空港まで。」そう伝えると、車内の後部座席にぐったりと身体を沈ませた。広い漢江が緑色に輝いていた。ラジオからは綺麗な発音が流れ続ける。自律神経がどうにかなっているんじゃないかと思うほど、体調が悪い。日本に帰って、自分はどうなるのだろうか。何もかもが私の理解の範疇を超えていた。運転手は、ときどき軽く舌打ちした。疲れのあまり、私は眠ってしまいそうだった。〈我々は、最終的にはなくなって行くもののために働くのだ。〉ふっと急にそんな言葉を思い出し、あれ?と思って鞄を探ると、貰ったお金が裸のまま、ばらばらになって入っていた。財布、携帯、イヤホン、電子辞書、パスポート、閉じられた封筒、ポケットWi-Fi。再びあれ、と思った。もう一度よく探した。中身を全部取り出した後、鞄に手を突っ込んで、何度も何度もからっぽの底を漁った。ない。それが「ない」という確信と同時に、頭が真っ白になった。カカオトークの通話ボタンを押すと、軽快な呼び出し音の後に彼が出た。あ? なんだって? お前今どこだ。ミアナンミダ、ミアナンミダ。頭がきゅうっと絞られるようだった。彼は声を荒げた。なんでだよ! なんでだよ! どこに落とした?! わかりません、ミアナンミダ、ミアナンミダ。カカオでのやり取りが終わると、私は消えてしまいたかった。クリアファイル、筆記具、ごみ、ハンカチ。ある日急にソウルへの派遣命令が下った。ひたすらに封入作業をしていた。お前、××大使館へ行け! そこで指示を仰げ! 彼は息をふううー、と吐いた。××大使館? それはどこですか? 知るか! 運転手に聞け!〈なくなって行くプロセス〉に参与することにのみ意義があって、あとはなんだっていいのだろう。自分が今朝から何も食べていないことを、今さらになって思い出す。ロッテリアは混雑していた。小さな汚いコンビニも、客が次から次へと中に入って行くからやめた。サラリーマンが排気ガスの中を行き交っている。どうにか口角を釣り上げて、さあ、行きなさい、はやく行くんだ。ユニ。業務委託契約。ユニは私を裏切った。明るい外に放り出された自分。太陽が白く輝いて、人々は皆、恙なく動いていた。
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