軌跡    小部こべ三十三さとみ

南に星が照って 北に太陽が浮かんで
雨がそぼふる中 僕は汽車を待つ
待つ 待つ 待つ 待つ
なけなしの正義感で

そのうち光が吹いてきて 薫風が降り注いで
汽車はこないから 両手に花を掬った
そうだ そうだ そうだ
守りたいものがあった

枕木の墓標 小石の骨 大地の鱗を踏み歩く
汽車はいらない 花は再生する 僕は
僕は 僕は 僕は 僕は
どこへ行くのだったか

星のなびいた冷えた丘で たまごに還る夢を見るとき
いつだって僕は胎児だった
目が覚めて指を丸め
その感触にどぎまぎして
泣く 泣く 泣くよ 今だって

東に星が留まって 西に月が揺れて
雨がそぼふる中 僕は僕を待っている
待って 待った えらく待った
その体内に朝がくることを
東西南北世界中から
夜明けの歌が鳴り響くことを
宇宙の片鱗で記憶が編まれることを

花をよけて立ったとき
「おはよう」って僕が僕に言うのを聞いた
虹が冷めた顔をして
プリズムのレンズを翳す
翳す 翳す 翳す 翳す
自由は僕だった


*Comment*

あなたがあなたに出会えて良かった。「僕は自由だった」ではなく「自由は僕だった」という最後の一行が、夜の深さを物語る。汽車は来なかった。あなたは生きる。

(早坂類 2013.12.20)

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