見るなら幸せな夢を    小部こべ三十三さとみ


   海のたびびとのノートより

君を追って帆をあげた
小さな旅行鞄ひとつと
ふたり分の寝袋つんで

上も下もない世界なのに
はいた息は散らばりながらも
空へのぼっていく

揺れるのは波か 心か
貝がひらけば
鈴の音がひびくよ

潮騒の楽団
夕暮れた空はあかりを落とし
星の合唱 波間にただよう

孤島の鳥も 母をおもいだす夜
水平線を歩いていれば
迷子の銀河と出合えるだろう

君の夢から便りが届く
それすら泡となり
僕に口づけをして

風のアルバムを受けて
いいことを思いついた
船に名付ける「U」は君の名


   まほうつかいさん

手放してくれてありがとう
光の回ろうを君はゆく
背中に三日月型のつばさをつけて
今度は若葉になるのかい
それとも海辺の小石かな
まさか嵐の雨じゃないよね
なんだっていいや
君が地球に生きているなら

出会ってくれてありがとう
夜のきりの中君はゆく
泥んこのワンピースでいつもみたいに
虹をすべり降りてきて
万がいち裸だったとしても
王さまじゃないならなんでもいいから

外は時計が歌ってる
中は羽音が泣いている
忘れていたっていいんだよ
飛び方も 歩き方も 泣き方も
話し方も 泳ぎ方も なにもかも

はじめとおわりを抱きしめて
わたしも旅に出るんだよ


   見るなら幸せな夢を

つとつとと雨が落ちる
屋根、猫のひげ、そしてぼくの指先から
太陽が旋回して
UFOを呼び寄せる
月は殺された
大戦争が起きている

真珠色のあの子の肌
雨に濡れて
冷たそうに震えている
人工衛星の自爆テロ
ぼくたちの血は夢を見るか?

誰しも 母さまの寵愛を受ける
銀河の一粒でさえ
子守唄があるのに
ぼくらの胸は
頼りない鼓動を鳴らす
まるで
調子外れのオルゴール

ビルの亀裂からのぞく君の目
青いビー玉みたいでキレイ
向こうから見えるぼくの目は
暗くて何色かなんて分からない
雨の神殿 時の魔法は
『コロシアイ』の代名詞

つとつとと雨が落ちる
屋根、猫のひげ、そしてぼくらの指先から
太陽が旋回して
UFOを呼び寄せる
月は骨にもなれやしない
大戦争が起きている

流れ星の断末魔が
なにもかもをさらいにくるとき
君と手をつないでいた
最初で最後のともだちと
宇宙へ帰るさよならの夢


*Comment*2014.07.05

 幻想世界は美しい故に孤独で厳しい。そんな風に思った小部さんの3編の詩。
 波も霧も雨も、傍から見たら美しいけれど、渦中にいれば冷たくまとわりつく。
 そんな気配が詩から流れてきたので3編並べてRANGAIに掲載させていただきました。

(榎田純子)

 最初、この甘さはどうかなと思ったのだけれど、何かのはずみに音楽が遠く聴こえて来たのです。
 そうしたらとてもよく理解出来たので、小部さんのミニ特集をしましょうと思いつきました。
 榎田さんのコメントがよく言い当てているので私のコメントはおまけです。

(早坂類)

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