わたしは旅する傘     小部こべ 三十三さとみ

わたしは旅する 傘
爪先はいつも新品で
つやつやと 輝く 雨で また ひかる

ままごとの役割はいつも 犬
拾った骨は 猫に取られて
開け放たれた 窓枠から
大きすぎる世界を傍観していた

わたしは旅する 傘
針金のように 尖った視線
向けるのはいつも 他者

背負ったリュックに つめたお菓子で
空腹を埋めることは できないみたい
誰かに あげてしまおうにも
軽すぎる感情は 浮いていった

わたしは旅する 傘
黒いコートに 身を 隠す
水に濡れては 姿を 見せる

リコーダーを なくしたの
あの子は そばに 来なかった
自転車のベルも なくしたの
雨音が「なにもいらないよ」と言った

わたしは旅する 傘
自分の留め具が わずらわしいの
いつでも飛べる 開いた 傘

わたしは旅する 傘
風が運ぶ 黒い 傘

小部三十三


*Comment*2015.07.07
雨という、その土地に降るもの、傘という動いていくもの、その対比が美しい。
世界につなぎ止められていない若々しさ、ここじゃないどこかへ旅を続ける若々しさ。
画像の疾走感とにじみに旅と雨の気配があって、同じ作者から生み出された詩と写真は、同じ魂のかけらを持つのだなと思いました。

(榎田純子)

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