夏の終わり

あの子がいない
あの子の影は ただただ黒く
冥界の空の闇を深くする
あの子を産んで
息果てるまで探した
母さんもいない
熱いあの子の体を 夥しい
風ぐるまの微風は冷やしている

夏の終わり
空は青かったが
その青を埋め尽くした
昇魂があった
後悔と似通う諦めを口元に
浮かべて吹き流されていく
雲になった

夏の終わり
太陽が割れて
地上で炸裂した
黒いあの子を見分けるものはない
だから あの子の存在は
始めから無かったことになり
人には記憶されなかった

ただ 冷たい石板に
あの子の記号が刻まれている
指でなぞると ざらりとして
痛みや無念が 弱い摩擦となって
皮膚に堪えるが
あの子の笑顔や好きだった歌や
手足の形や甘やかな声を
知ることは出来ない

夏の終わり
土は流れて あの子を探す
河口に堆積して土地をつくり
そこで再び あの子を探す
何千年経とうとも
あの子は憶えられている
大地が忘れることを赦さない
人が死に果てても
あの子は死なない
夏の終わりの始まりに
あの子は大地を離れなかった

にんげんを 
みていようと
きめたのだ

Akane.Utamura 2015.

ページの上部に戻る