財部鳥子『一刻』

雨女

上空からながめると
菜の花の黄がみだらなほどの江南地帯
輪タクに東東と相乗りで風に吹かれている
雨がふるよ 君が来たからさと彼はいっている

木蓮

庭梯子が疾風に投げ出された
白木蓮の蕾が砂風にまみれている
わたしは蕾を揺さぶる風を一日眺めていた
ゆうぐれ点された街灯のような花がある

夏休みのプールで
背泳ぎしている赤い水着の船よ
わたしたちは彼女に掴まって水をわたる
星旦は青空の果てのはて

クレー風の天使

東洋人は桃の木の下で解脱する
西の天使たちは解脱など知らない
海辺の瓦礫の山が天に届くほどになった
未来が死者たちを目覚めさせる

虹の彼方

無慈悲な神がこちらへ渡ろうとしている
涙の蒸気でできている冬の虹
それでも七色そろっている
消えないうちにお出でください

百年

楡の木の立っている旅順博物館の優しいミイラよ
古い眼窩で楡の木の鵲をみていた
蒙古人たちは楡を鵲の木と呼んでいる
博物館の鎧戸の格子はクサビ形を並べて錆びている

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