ヒナドリ     小部 三十三

音に身をまかせていた
わたしは果てだった
地平線に浮かぶ蜃気楼も
わたしには訪れることができる
指先から虹を描いて見せてくれた
アルバムの中の母さまは
もう どこにもいないけれど
胸のなかの空のした
行方知らずの旅人

星空のなかを飛行船が泳ぐ
わたしは夜だった
超新星爆発を知らないのだもの
わたしには泣くことができる
手のひらの胡桃にいのちを吹きこんだ
鏡のなかの父さまは
もう どこにも映らないけれど
扉の向こうの泉のそばで
ホームシックの赤ん坊


*Comment*
空想はひとりでする。
自分の内にある響きを聴く。

小部さんの内側からにじみ出てきた詩。
それがこんなにも美しいということ。

うっとりと読み返せるようにしておきます。

(榎田純子 2016.05.28)

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