長山太一「道端に転ぶ石を蹴りながら歩く」他4編


「道端に転ぶ石を蹴りながら歩く」

道端に転ぶ石を蹴りながら歩く…

痛みは感じない…どこに転がって行くのさえ

わからない…でも蹴り続けるんだ…

気の済むまで…

心の中の石がなくなるまで…

心の中の石がカラッポになるまで…


「家族」

泣かんでいいよ…泣かんでいいよ…

そう言いながら…

娘が私の涙を拭いにくる…

一生懸命…一生懸命…涙を拭きにくる

息子がゆう…父ちゃんなら大丈夫だよ…

自信持ってと…!

嫁がゆう…焦らないでいい…あなたのペースで…

気負わずに…なにも怖くないと…

家族に支えられながら…弱い父は…

前に進みます…あなた達の笑顔が

見たいから…ありがとう…ありがとう…

大好きな家族へ…


「ニューヨークの地下鉄の片隅で」

ニューヨークの地下鉄の片隅で

年老いた黒人ホームレスが心を打つ

ブルースを歌っている…

彼の声には悲しさや切なさがあり…

時代の背景とはべつの次元の世界がある…

道行く人達はいつもの事のように

彼の前を素通りしていくが…

彼のブルースは響き渡る…

まるで自分の人生を聞いてくれと

言わんばかりの歌声で…

地下鉄の反響音の中…

熱く切なく魂で彼は歌っていた…


「言葉達が励ましてくれる」

言葉達が励ましてくれる…

一文字一文字が勇気付けてくれる…

生きる望みを与えてくれる…

心が豊かになり…人を好きになり…

胸の中が暖かくなり…言葉が心を打つ…

今までの出会い達が私にそうしたように…

音楽が私の心に優しく語りかけるように…

好きな人がキスをしてくれるように…

私を励ましてくれる…

生きている事が幸せと感じるように…

今私は生きる事を望んでいます…

今私は生きる事を望んでいます…


「私の心が騒ぐ日にベランダから森を見る」

私の心が騒ぐ日にベランダから森を見る…

縦横無尽に吹き荒ぶ風達は森の樹々を

ざわつかせ…自分の心の気持ちとリンク

しているように見える…

一際大きい風が巨大な大木に吹くと

巨大な生き物のような怖さを感じた…

迫り来る樹々の動きは幹をしならせ

そして枝はうねりのように動き…

風の声が、呻き声のように聴こえると

得体の知れない怪物のように見えた…

彼らは生きていると心から思った…

自然の怖さをまざまざと見せつけられ

息さえ飲んだ瞬間がそこにはあった…

生きている森の怪物がそこにいた…


*Comment*
小石を蹴り続けて前へ。
小石を蹴り続けて明日へ。
小石にみちびかれてかつて居た場所へ。
「前」は前進ではなく「自らの内へ」ということ。
生きている森の怪物たちのように。

(早坂類 2016.10.03)

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