ペダル

暮れ方の梢で
鳥たちが囀り、
ねぐらの準備をしている。
私はペダルを漕ぐ足を緩める。
道路脇ほっと灯る自販機の明かり。
喋りながら過ぎて行く中学生たち。
この穏やかな時刻に
はっとするような意識で
一日の疲労を、清涼へと代えながら、
私は見上げるでもなく、空を見遣った。

(今、何かが、君を刺し貫き、君の根底が揺らぐ。)

(薄い手が手渡した書物。深く刻み込まれる烙印。)

水道塔の上を吹く風を、白く薄い星影を
吹き渡る風を、鳥たちの一群、黒い影が
旋回しながら、枝々に舞い降りて来る。
西の空だけが、遠く、まだ淡く暮れ残っていて。

(敬愛する友よ、親愛なる息子よ。
 此処は涼しくて、心が寒くて死にそうだ。)

次第に見えなくなって行く光の中で
何故か込み上げて来る悲哀を、抑え切れずに
私は吐いていた。毒突いていた、白い蛇に。
くたばってしまえ、白い蛇よ。
その光を、私は慈しみ、幾分は懐かしみながら。

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