雪積みて闇を殺せりみちのくの祭りの夜は灯されにけり
空国の胸より噴きて夜となく昼となく身を灼きつづくとや
雪の粉に火の粉まじりてあはれあはれ消ぬがにふるはいづちいづちいづち
篝火の火の香も木の香もほたほたとゆきをたたきてあとかたもなし
いかやうな因果の果てか知らね知らね烟のゆくへも知らに知らに知らに
しらしらにつもるゆきよなう小町にはあらねどすゑはかならず老女
まがごとのちからを吉事といふことにしてありし日のことだまいづこ
ふりむいてくださらなくても此処は過去ですよそのままそちらへどうぞ
まづは葉のかたちにつもりやがて木のかたちにつもり冬一緒くた
このやうに雪はふつたりつもつたり雪の国にて示す雪の句
衣川までまろびたまへ西行が歌霊結べ雪に氷に
夜咄につきづきしくも雪の庭灯をともせ灯を夜明かしの灯を
鍵ひとつつけたら開けてみたくなるこの夜の扉あの世の背
ゆきしひとの屍とともに暮らししとふ縄文びとの腕し思ほゆ
たましひをまとひてあるくみちのくの風にかさなる幾千の袖
*
死んでゆくものがながれてゆく川に生きてながれてくる雪の島
もし海をおほきな墓といふのならこの島国はちひさなひつぎ
置きざりにして何度でも見にかへる記憶のなかの悲鳴の袋
生きるはうの枝をつかんでここにゐる つかまなかつた死の枝を編む
たまさかがうちかさなつたときの音もゆらもゆらにもゆるたまゆら
わが母よわが母国よわがうちのうたの雛型ことばの鋳型よ
国ほろぶときに生まるるものがあるのならばわれはうたを生まうよ
まほろばと言はばいふべしほろびからほろびにむかふつかのまのまを
さつきまで母だつたのに母だつたことのある場所だつたのに其処
なにがなしふくらみてゐるそこを裂くかがやきをれば目となづけおく
かなしみは死者の呼び鈴あまたたび呼ばれてあるく戸のところまで
なきひとはひかりをとほしゐたりけりこのわたくしはひかりをかへす
生まれてくるずつとまへから生きてゐたゆめをみてますゆめとは知らず
たましひはてふてふゆめはさなぎの身どろどろのゆめそのもののさ身
はるの雨こさめはやさめ夜のあめさめてしまつたゆめを生きをり