あなたの話

仙田の目が、とろん、となりまして。べべん。
そう認識した時には、時すでに遅しって感じで、仙田の後ろに、大根のように突っ立っていた川井出の手が、ぐわっと喉を、演劇調につかんで、骨がみしみし、あっ、みしみしっていうのは、つまりオノマトペなんですけれども、理想的な音を立てて、立てて、そこから美しい足払い、ずっそーんと後頭部がアスファルトに激突した。

生まれたということそれは世界という大きな詩の一片になること

鼻っ柱の毛穴から、発狂した聖人が、次々と飛び出していく。
十手で殴るのは勘弁してくだはい、と懇願するものの、川井出「無理」と一言だけ言って、また殴る。
洋式の便器が、一瞬だけ脳裏に浮かぶ。
なぜだ。バックでは仙田の弾く三味線が、べんべんべんべんって、鳴っていて、流れる血がお寺を建立する、それは別にいいんだけどね、って顔をすると、すかさず川井出が十手を振り上げる。

さすまたを持った職員たちがきて窓から飛び降りたのは、心です

近所のお祭りでイカ焼きを買い、金銭三百円を支払い、売り主である金髪でadidasのジャージを身に纏った十代の女性に、ぱちぃん、とウインクをした、してやりました、それは何故かと申しますと、キュートだったからでありますが、したら、女、イグアナを丸ごと素揚げして食べなさいと命令されたような表情をして、ぶるぶる震えだし、仙田さぁぁぁん川井出さぁぁぁんと、叫んだ。

記憶を司る部位のお話。

これはあなたの話でもあるのですよ。

呻きながらポケットの中を弄ると、自転車の鍵があった。
三味線の音は止んでいる。仙田は自ら床に撒き散らした白い粉を鼻から吸いながら、

援助交際はぜったいにダメに一票
援助交際はぜったいにダメに二票
援助交際はぜったいにダメに三票

と、ボソボソと喋ったあと、四つん這いになったまま動かなくなった。
自転車の鍵の、キーホルダー部分をぎゅっと握りしめて、聖者の石、っていうものがあるのならばこんな感じ、みたいに固まり、虫の息じゃん、はは、くそ笑える、虫の息じゃんって言いながら、ぐんぐん顔を近づけてきた川井出の眼球に、その鍵を、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、突き刺した。

これは、あなたの話でもあるのですよ。

脳内で、年増のウグイス嬢が喋っている。

目的地周辺ですが案内を中止しました目を開けなさい

これは、あなたの話でもあるのですよ。

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