造本の旅人・7 『あなたを起こす99の方法』イイダアリコ

イイダさんは『林檎貫通式』という歌集を持つ歌人であり、西荻窪のフリーペーパー「西荻丼」スタッフであり、ミニコミ誌『別腹』の編集長でもある。そのあくなきミニコミ魂に私は常に畏敬の念を抱いている。

そうでない夜にも折って分けあえばウエハースは溶けやすき菓子  飯田有子『林檎貫通式』
菜の花にからし和えればしみじみと本音を聞きたい飛雄馬の姉さん
なぜ涙が砂糖味に設定されなかったかそんなの知ってる蟻がたかるからよ

「あなたを起こす99の方法」は文字通り「人を起こす」ための方法を、飯田さんが友人知己に尋ねたり、各種文学や漫画から見つけだしたりして集めた「起こし方」のアンソロジーだ。

「背中に乗る」「毛布をひっぺがす」などの実力行使系から、宇宙飛行士が宇宙ステーションで起床アラームとしてきいた楽曲の話や、aiBoの起こし方、モーニングコールサービスの会社(?)広告まで、さまざまな「起こし方」が集められている。
原本は15センチ角のキュートな三分冊である。

原本。表紙色の赤・緑は「ノルウェイの森」装幀が由来らしい。表紙イラストはイイダさん画

今回の制作にあたっては、シリーズ初の「カバー付き本」にしてみた。
ぴかぴか光る本にしたかったのだ。しかも渋く。
カバーの絵柄が蛸なのはなぜか、私にもわからない。はじめからそう決めて取りかかった。

カバーを外してもタコである。製本はコプティック製本の変形(表紙は本文と糸で綴じず、見返しと接着している)で、ページデザインはトランプを模している。

カバーは包装用の袋を解体し、裏にコットン生地を接着、端を赤銅色のメタリックな刺繍糸でまつり縫いした。表面にブラッズやメタルパーツを取り付けるのが楽しく、且つ難儀した。まつり縫いをしたのは中学の家庭科授業以来じゃないだろうか。冷や汗が出る。

見返しと本扉。カバー袖は袋状になっている

イイダさんはこの時点で137個の「起こし方」を収集したそうだ。原本には61までが収録されている。
「このまえ、1から順に実行するぞ、と言われてとび起きた」。

原作者(イイダさん)に贈ったぶんと並べてみた。タコのヴィジュアルがまちまちなのはご愛敬

この本は原本がすでにしてかわいい完成されたものであり、あらためて本を作らせてもらったのは、製作者の我儘としかいいようがない。
今現在ももちろんのこと、何百年か後の人にも、他の天体の生命体にも、この本を見て「Oh…」と言ってもらいたい。
地球の人々は、こんないろいろされて起きたり、起きなかったりしているんですよ。
なお私がいちばん好きな起こし方は「枕元でフラメンコを踊る」です。

制作を快諾し、ご協力くださったイイダさんに感謝申し上げます。

 

[DATA]
本体 W62 D12 H62(mm)
カバー W148 H69

本体 表紙 ビオトープ ナチュラルホワイト〈60〉
見返し タント N-52
本文 コミックマガジン〈69〉
カバー ラッピング用袋 ゴールドシボ入り
コットン生地 ソフトブロード ネイビー
シールフェルト 黒
DMC Diamant刺繍糸 D301
クレタケ ブラッズ
メタルパーツシール 星
封入用メタルパーツ

表紙 カラーレーザープリント
本文 カラーレーザープリント

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