青い卵  赤野四羽

春浅き婚姻証書あれもこれも

桜の下にふたり腎臓はいくつ

癌焼いて春の細胞芳ばしき

鼓膜から鼓膜へ届く処女のゆび

睾丸もふうせんならば尊かろ

褥には少年不敵に割れふたり

夏の夜おおきなものがあばれてる

たましいは遺伝にあらず立葵

蟻を飼い馴らす寿司に限ります

夏魚は臆病なので骨だらけ

教科書の秘密のくすり夜の喉

永遠に死なぬ顔して秋の猫

どくきのこ親戚がまた怒ってる

ゆず甘しふまれおかされころされて

唐揚げに檸檬は天才なのかしら

遠山に鳶鳴く秋の胎児赤

行きずりの小指を吸って秋の蝶

冬蜘蛛の愛に机のうえ狭し

ひいらぎの花咲く鳥は去りて躁

いい天気ですね青い卵は言葉


三重で俳句を作っております、赤野四羽(あかのよつば)と申します。表向きは、赤蜻蛉のことを意味しています。実際は、アカノシバヒトという名でFree jazzのSaxを吹いておりまして、その捩りです。18年7月に『夜蟻』(邑書林)という句集を上梓したご縁で、RANGAIに作品を発表させて頂けることになりました。俳句というのは季語や結社の力が強く、内部で自足しがちな世界です。私の場合は元々音楽をやっていたこともあり、ジャンル間の交流が好きです。俳句を元に即興演奏をするJAZZ句会なんてことも始めています。保守的な文芸に見られがちですが、エズラ・パウンドやビート詩人らが注目した俳句のこのextremeな「短さ」、それそのものがavant-garde性を秘めています。その強みを引き出す『現代俳句』が書きたく、試行錯誤の日々を重ねています。(2018/11月)


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