あの日 夏空は燃え立ち、
辺りには陽炎が幾つも揺らめいていた
容赦なく肌に突き刺さる日差しを避けて
君が逃げ込んだ先は
濃密な影の堕ちる窪み
君はあっという間に影に呑み込まれ、
誰もいないマンションの廊下は
気配ばかりがこれでもかというほど立ち上っており
それはまるで黄泉の国からの昏い匂い
瞬く間に 肌が粟立つ
君はあの時 逃げなきゃいけなかった
あの闇から逃げなきゃいけなかった
すっかり闇に、匂いに、呑み込まれて君は
自ら手を伸ばした その先へ
あの日君は そこに在た
そして今 君は 在ない
(写真・言の葉:にのみやさをり)