方向性詩篇

Bye-bye.

夏に架かる橋を思っていた。
ラグ、ラグタイム、フラッグ。
(ほら、サウンドが聞えないか?)
何処かから、あの可愛い手足が見え隠れする。
僕たちは素顔をあらわして、浸っていた。気持ちの整理が
上手く行かなかった日、それでも、あたたかい飯があり、
家があり、彼女が居た。何億光年の彼方かなたから、
ばいばい、手を振っている。
針先のような脚で
水面を渡って行く。雨だったのさ、天才だよ。
Jr.が倒れてパパが凍り付く。ぱいぱい、
ぱいぱい…。
やがて地球だって雨になるだろう。それこそ、
世界がまた水浸しになって、巡り来る夏、
暑さへと続く洪水の始まり、始まり。

流布せよと忿怒に
――ホントウニヒツヨウナノハキミダッタ。

原典にあたり、原点に思い至って。
見えない死児を、何処に見出そうと。
(はしゃぐ泥棒猫から日々を奪い返す。)

踏まれる親。
吸われる乳首。
(姻戚にしたためる、眼の膿瑪瑙みのようなメール。)

転がり落ちる茶碗、済まないことへの断罪…。
万感がある。
万感がない。

割れたサイフ財布、贖罪、装備。
ゆるゆる、流れろ。――流れろ。
流布せよ、版図に。流布せよと本当ホントに。

これは嗷嗷ごうごうの河、憤死するイオ。
頭上に網を張って、星夜を見透かせば。
輝く想像イメージのイオ、漠として見えぬままの指針…。

ラグ、ラグタイム、フラッグ

より高く飛べ、力に。

オレの百年を預けよ。

豪放なる号砲、従軍と腐敗。翼に

あたためるもの、たゆまぬもの。

浮標を、

建設する。新しい

指標を。

これは隔壁、イコンにまみれたカベ

高尚なお前は笑っていろ、ビルトインコンロ。

不毛なちからが、煮え滾って行く衰弱。

コイン論とルビを、

組織する朝だ。背理はいり

海にくだり、寒い。

――われらは待っている(思っていた。)

ラグ、ラグタイム、フラッド。

暫定的生活

公営住宅に〝ボイジャー〟と名付けた犬を飼って棲む隣人。
よくわからない旗を、人々がモニターの中で振っている。
毎週誰彼だれかから箱が届いて、なかの荷を仕分ける仕事をしていた。
硝子の街――来る日も来る日も、惑星の構造を考える。

コンビニのライターでガス・コンロに着火して湯を沸かす。
「わたしの人生は、本当にこうして工員みたいに過ぎるんだろうか」
便所に籠って読み耽る『人間失格』。
局員が来てドアを叩く度に、我々は頻繁に居留守を使った。

何度叩くのだろう、何度…。塹壕の生活。
水の翼が欲しい。薄暗いエレベーターホールに
廃自転車と埃がうずたかく積み重なり、汚れた窓を
作業着の男が一人ブラシでこすっている。(それもやはり俺だった。)

コーヒーと煙草が切れる都度、俺はLAWSONに歩いた。
テーブルに向かい合い、各々の任務に集中する我々。
メーター屋が訪ねて来て支払いを一時躊躇し、再び席に戻ると、
この部屋は昼間もカーテンを閉め切っているからくさい。

眠る前、熱心に異端の話をし、湿った床に就き、
朝、陽の昇らないうちに届いたばかりの新聞を開く。
価値と価格の透き間を、細い針と糸で通しながら、
辛うじて糊口を凌いだ。塹壕の生活。欲しかった水の翼よ。

地上の人

煙草を吸っていると訪れた安堵あんど
君が震えているのは、薄いジャンパーの所為せいじゃない。
曇天の雲間から差す光が、手を切る草の葉先を、
キラキラと輝かす。いつかの日々、白い猫だった我々。
木々の梢がざわざわ騒めき、私はこの原っぱで、
不意に君の手を摑む。――寓話めいた季節を
ただ機械のように生きる。
根暗な優しさをたずさえ、穏やかな風がって来たら。
帰ろう、と君が呼び掛ける。帰ろう、二人の部屋へ。
君も私の指を握り返し、私という廃墟は、
君と黙って短い家路に着く。

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